ワーグナーの聴き方

ワーグナーについてよく言われるのは「長い」、「わかりづらい」、「堅い」、「退屈」といった言葉です。個々の好みはあるとは思いますが、食わず嫌いで避けて通っている方も多いと思います。

そこで、私流のワーグナーの聴き方を紹介しますので、もしよろしければ参考にしてみてください。

◎とっかかりは「タンホイザー」か「ローエングリン」を映像で
◎CDで買うなら全曲盤で
◎ライトモチーフを意識して聴く
◎演奏を聴きくらべる
 
指揮者で聴きくらべる
 
歌手で聴きくらべる〜ワーグナー・テノール編
 
歌手で聴きくらべる〜ワーグナー・ソプラノ編

◎とっかかりは「タンホイザー」か「ローエングリン」を映像で

 ワーグナーの魅力はワルキューレの騎行など有名な曲だけ聴いてもわかりません。ワーグナーが総合芸術を目指したように映像つきで、しかも全曲みることが実は最もとっつきやすいのではないかとおもいます。

 それでは、どの作品をみればいいのかということになりますが、内容的に面白くてわかりやすく、かつワーグナーの魅力も充分詰まっている作品といえば「タンホイザー」か「ローエングリン」、この2作だとおもいます。長さも3時間程度と後期作品と比べれば適度です。(この2作より前にできた「さまよえるオランダ人」は時間は2時間程度と短いのですが、内容的な面白さ、ワーグナーの魅力という点ですこし不足しているようにおもいます。)

 この2作のどちらかを映像付きでみれば、充分にワーグナー作品の魅力を感じられるとおもいます。ただし、映像は最初のうちはあまり前衛的な演出のものよりは比較的正統的、伝統的な演出のものをおすすめします。(具体的にはメトロポリタン歌劇場やバイロイト祝祭劇場のもので市販されているものがいいとおもいます。)




◎CDで買うなら全曲盤で
 映像でワーグナーの魅力に気づいたら、今度はCDも聴いていきましょう。ただしここでも先程書きましたようにハイライト盤ではなく、全曲盤を買うことをお勧めします。これを対訳本を見ながら聴いていくのです。国内盤だとだいたい対訳本がついていますが、もしついていない場合や輸入盤を買った場合は、書店で対訳本を買って聴いてみましょう。ただ聴いていただけでは退屈に感じられる部分が、台詞がわかることによって実は深い内容のあるものだということがわかります。

 また台詞や韻のリズムの美しさ力強さも感じることができるでしょう。そして全曲を聴きとおせば無限旋律のうねりを実感することができるはずです。




◎ライトモチーフを意識して聴く
 「ワーグナーって?」のコーナーの「ワーグナーの革新性」でも書いたようにワーグナーはライトモチーフ(示導動機)を駆使することにより、情景や台詞に表れない心理などを表現し、作品をより深いものにしました。このライトモチーフを知ることは、よりワーグナーを深く知ることにつながります。とくに「ローエングリン」以降の作品ではライトモチーフの使い方はより効率的なものとなっています。

 ライトモチーフは国内盤の全曲盤CDで「対訳本つき」と書かれてあるものにはだいたいライトモチーフの解説がが楽譜つきで載っています。

 ここまでの段階になれば、ワーグナーの魅力を存分に感じられるはずです。ここまで聴いても嫌いという方は、その人にはワーグナーが合っていないということでしょう。
 さて、これで充分なんですが、作品を楽しむ方法はもっとたくさんありますので、それを今度は紹介していきましょう。



◎演奏を聴き比べる
 この楽しみ方はワーグナー作品に限らず、クラシック音楽鑑賞の大きな魅力のひとつだと思います。演奏者によって全く良し悪しが違ってきますし(これは個人の好みによるところも多いとおもいますが。)、作品全体の雰囲気も変わってきます。しかもオペラの場合は指揮者のほかにいろいろな役柄の多くの歌手によってなりたっているので、そのぶん多くの演奏者を同時に鑑賞することができます。
 
 ということは「この演奏は指揮者はいいけど○○役の○○○○がよくない。」などといったように全てが揃ったいい演奏というのは、交響曲や器楽曲といった普通の音楽作品以上に難しいのです。ですから理想の演奏を求めて同じ作品でも演奏者が違うCDを何枚も買ったり、もしくは「○○○○が歌う○○役を聴きたい」といった目的でCDを買ったりと非常に多くの楽しみ方があるのです。
 それではワーグナーでこのような楽しみ方をするとどうなるでしょう。


 
(指揮者で聴きくらべる)
 ワーグナーの作品は他の作曲家のオペラとくらべてオーケストラパートも物語の進行上重要な役割を果たすことが多いので、それを統率する指揮者の役割は非常に大きく、その特色が作品のカラーを決めるといってもいいとおもいます。ここでは代表的なワーグナー指揮者をタイプ別にあげてみましょう。
 
 ・巨大スケール型・・・ハンス・クナッパーツブッシュ、ジェームス・レヴァイン
 スケールが大きいといってもクナッパーツブッシュは重心が低いドイツ的な演奏で、言い知れぬ大きな空間を演出するのに対し、レヴァインはどちらかといえば明るめの非常にバランス感覚に富んだ演奏です。
 
 ・質実剛健型・・・ヨゼフ・カイルベルト、カール・ベーム
 基本的にテンポを動かさないどっしりとした演奏ですが、分厚い音からみずみずしい音まで表情豊かな音色のカイルベルトに対し、ベームは非常に引き締まった硬質の音で聴き手に迫ります。

 ・感情表出型・・・ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、ダニエル・バレンボイム
 テンポの上げ下げが大きく、ストーリーの進行にあわせて表情豊かに熱のこもった演奏を聴かせてくれます。
変幻自在かつ重みのある表現力を魔術のように使うフルトヴェングラー、荒々しいまでのテンポ設定がはまれば絶大な熱気を生み出すバレンボイムとそれぞれ個性豊かです。




 
(歌手で聴きくらべる)〜ワーグナー・テノール編
 いわゆるヘルデン・テノール(英雄的テノール)ですが、ワーグナー作品のヒーローはほとんどこのパートです。
 充実した低音域と輝かしい高音を併せ持ち、しかも強靭なスタミナとテクニックも必要とされる超人的なパートです。このためいつの時代もこのパートの人材は不足しがちです。
 そのなかも一時代を画した代表的なテノールを年代順にあげてみましょう。


 40年代前後  ラウリッツ・メルヒオール・・・輝かしさ、力強さ、重さを併せ持つ稀有のテノール。
           マックス・ロレンツ・・・張りのある声が特徴の戦前のドイツを代表するヘルデンテノール。
                  ルートヴィッヒ・ズートハウス・・・陰りをおびた声質は悲劇的役柄にピッタリ。
 50年代前後    ヴォルフガング・ヴィントガッセン・・・つまり気味の声が独特の魅力。表現力も見事。
                  ラモン・ヴィナイ・・・荒々しいまでの強力な声のチリ人テノール。
 60年代前後    ジェス・トーマス・・・若々しさと重さのバランスが見事。
 80年代前後  ルネ・コロ・・・元来の輝かしい声に晩年は重量感が加わった。
              ペーター・ホフマン・・・独特の悲劇性をおびた力感あふれる声。カッコよさは一番。
 90年代前後    ヴォルフガング・シュミット・・・歌い方ににクセがあり、好みがわかれるが威力は充分。
                        ポール・エルミング・・・若々しい透明感のある声。

※どちらかというと昔の重く暗い声のテノールから現在は輝かしさ明るさを持ち味とするテノールへと傾向が変わってきているようです。




 (歌手で聴きくらべる)〜ワーグナー・ソプラノ編
 
ワーグナー・ソプラノといってもローエングリンのエルザ、タンホイザーのエリーザベトのようなドラマティックながらも比較的軽めで、優しさ柔らかさを持ち合わせている歌手から、強力な声で非常に激しく劇的な表現をおこなう歌手までありますが、ここではその点にあまりこだわらないで、テノールと同じく年代順に代表的ソプラノを挙げてみます。

 40年代前後  キルステン・フラグスタート・・・神々しさと暖かみを持った理想的ワーグナー・ソプラノ。
 50年代前後  アストリッド・ヴァルナナイ・・・低音域の充実した情熱的な歌唱が持ち味
          マルタ・メードル・・・独特の張りのある鋭い声で魅了。
 60年代前後  ビルギット・ニルソン・・・正確無比のテクニックで、しかもスタミナ抜群。
 70年代前後  カタリーナ・リゲンツァ・・・ドラマティックながら女性らしさも併せ持つ。
           ギネス・ジョーンズ・・・強大な声が持ち味の絶叫型。
 80年代前後  ヒルデガルト・ベーレンス・・・繊細な表現が持ち味。
 90年代前後   ワルトラウト・マイヤー・・・暗く陰影に富んだ歌声に情念あふれる表現力。



 以上あくまで独断と偏見で書いてみました。ご参考までに。
 このように自分なりにいろいろな録音を聴きくらべていくとそれぞれの作品、役柄にふさわしい指揮者、歌手が出てくるとおもうので、よりベストの演奏を求めてCDを買ってみてはいかがでしょうか。

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ワーグナーって?作品紹介&解説