舞台神聖祝祭劇「パルジファル」(初演1882年バイロイト祝祭劇場)

パルジファル
[主な登場人物]
 パルジファル・・・純粋で無知な若者
 グルネマンツ・・・聖杯守護の老騎士
 クンドリ・・・罰により永遠にさまよい続ける女
 アンフォルタス・・・聖杯城主
 ティトゥレル・・・前城主でアンフォルタスの父
 クリングゾール・・・魔法使い

 聖杯城の先王ティトゥレルはかつて一群の天使たちから、十字架上のキリストを刺した聖槍とその血を受けた聖杯を授かった。この聖槍と聖杯は騎士たちにとって力と平和の象徴となった。

 しかしその秩序もクリングゾールによって破られる。彼はかつて聖杯騎士団への入団を試みるが、罪への衝動を断ち切ることができず、聖杯にまで手をのばそうとしたので騎士団から追放された。しかしこの時から彼の目的は一転して聖杯の王国への破滅へと向けられることとなる。

 クリングゾールは自ら魔法の城主となって、彼の住む荒れ野を魔法によって官能の園に変え、そこへ聖杯騎士たちを誘惑し、彼らの純潔な誓いを破らせようとしているのである。

 ティトゥレルの息子で現王のアンフォルタスはこの事態を食い止めるべくクリングゾールと戦ったが、彼もまたクリングゾールが操る美女クンドリに誘惑され、自らの聖槍を奪われたあげく、その槍によって腹に深い傷を負ってしまう。そしてそれ以来その傷は決して癒えることがない。

(第1幕)
 舞台は聖域モンサルヴァートの森の中。聖杯騎士団の老騎士グルネマンツは小姓たちとともに朝の祈りを捧げる。そこへ馬に乗って荒々しくクンドリがやってくる。彼女は傷ついたアンフォルタスのため、アラビアから薬を持ってきたのである。

 クンドリはクリングゾールの手にかかり、アンフォルタスを誘惑してしまったが、魔法にかかっていないときはある罪を贖罪するために懸命に奉仕する女であった。

 聖杯城の者たちはアンフォルタスを傷つけたのはクンドリではないかと疑っているが、はっきりとした証拠がないため断定できないでいる。

 やがて傷ついたアンフォルタスが水浴びをしにやってくる。王はクンドリが持ってきた薬に感謝して湖に向かう。

 彼女の良い行いにもかかわらず、彼女に疑いを持っている小姓たちは彼女をののしる。それを見たグルネマンツは今彼女がやっていることは良いことなのだからと彼らを諭す。そして彼らにこれまでのアンフォルタスの苦難の経緯を語る。

 さらにある日アンフォルタスが聖杯を前に救いの道をひたすら願うと、神々しい光が聖杯から発し、夢のような姿で現われた主から神託を聞いたことをグルネマンツは語る。それは「同情にて知を得る清らかなる愚か者を待て。」というものだった。

 それを聞いた小姓たちは感動し、その神託の文言をつぶやくと、突然騒ぎ声がして一人の若者が連れてこられる。彼は神聖な鳥である白鳥を射落としたため一同の怒りをかう。

 グルネマンツは若者に罪の意識を持たないのかと問いただす。やがて若者は悔悟の念に捉われ、自分の弓をへし折る。グルネマンツはその若者に出自や名前を尋ねるが若者は何も知らない。善悪の判断をも身につけていない若者にグルネマンツはひとつひとつ丁寧に教え、若者は素直に受け入れる。

 若者はただひとつヘルツェライデという母親の名前だけを覚えていた。しかしその母親も息子が出奔したその悲しみのあまり死んでしまったことをクンドリから知らされる。すると若者は逆上してクンドリに襲いかかるので、グルネマンツが再度若者を諭す。クンドリはそんな若者に対し水を与えていたわるのでグルネマンツはクンドリをほめる。

 しかしクンドリに突然睡魔が襲ってくる。クリングゾールの魔法がクンドリを呼んでいるのだ。クンドリは罪の意識に捉われながら、否応なくクリングゾールの手下にされてしまうのだった。彼女はグルネマンツに気づかれぬよう密かに森のなかへと消えていく。

 一方、グルネマンツはこの若者こそかの神託で約束されていた「同情にて知を得る清らかなる愚か者」ではないかと思い、彼を聖杯城へと導く。

 聖杯城内へは聖杯がそこへ導こうとしない限り、普通の人は入れない。「ここでは時間が空間となる。」というグルネマンツの言葉とともに、若者は地上には存在しない不思議な空間に導かれていき、ついにその道をくぐり抜ける。

 そこには大聖堂が広がっており、これから聖杯の儀式が始まろうとしていた。先王ティトゥレルがアンフォルタスに聖杯の儀式を行なうよう指示する。聖杯は開帳すると不老不死の恩恵を受けることができるのだが、罪の意識にさいなまれ永久に閉ざされることのない傷のため死を願うアンフォルタスは聖杯を開けることをためらう。しかし他の騎士たちとティトゥレルの再度の要請により、苦しみながら聖杯を開帳する。

 聖杯はまばゆいばかりに光り輝き、全ての騎士はその恩恵を受ける。そのなかで一人アンフォルタスは苦痛の面持ちでいる。その姿をみた若者はしばらくの間痙攣を起こし心臓を押さえていたが、その後は硬直したように立っている。

 やがて祝福に感謝する騎士たちの合唱のうちに儀式は終わり、アンフォルタスをはじめ、騎士たちは退場する。しかし若者にはアンフォルタスの苦しみに精神的衝撃を受けながらも、聖杯への奉仕に開眼したというような反応は全くみられない。グルネマンツは若者の愚かさにがっかりし、彼を聖杯城から追い出してしまう。

 しかしその時、一人残った若者に「同情により知を得る清らかな愚か者」と天から声が降ってくる。鐘の音が遠くで鳴り響く。



(第2幕)
 クリングゾールの魔法の城。クリングゾールは聖杯城を追い出された若者がやってくるのを確認し、魔法で呼び寄せたクンドリに若者を誘惑するよう命令する。クンドリは抵抗するが、結局彼の魔術により言いなりになってしまう。

 その間に若者は魔法の国に足を踏み入れると、花の乙女たちがまとわりついてくる。若者が彼女たちの誘惑をはねのけようとしたとき、誘惑者に変身したクンドリの「パルジファル待って!」の声が若者を釘づけにする。若者はこの瞬間、母親が自分のことをパルジファルと呼んでいたことを思い出した。

 クンドリはパルジファルの母ヘルツェライデの息子に対する想いと、出奔した息子のことを嘆きながら死んでいった彼女の心境をパルジファルに語る。パルジファルは初めて苦痛を覚え、罪の意識に目覚めはじめる。そしてその意識に苦しむパルジファルにクンドリは母の愛の代わりと言って接吻をする。

 それによってパルジファルも誘惑の手に落ちると予想していたクンドリだったが、パルジファルはその瞬間、アンフォルタスの名を叫ぶ。

 初めて官能の疼きを知り、それが罪の意識と結びついた彼は、人間の罪、さらにアンフォルタスの罪を理解し、その立場に立つことが可能になったのだ。

 パルジファルがクンドリをはねのけようとすると、彼女は自らの運命の秘密を打ち明ける。彼女はかつてキリストがゴルゴタの丘へ十字架を背負って行こうとする時それをあざ笑った罪のため、真実の愛を得なければ救済されず、死ぬことができないのであった。そのため彼女は心ならずもクリングゾールのもとで男性を誘惑しているのであった。

 そしてパルジファルにほんのひと時でも結ばれたいと哀願するが、パルジファルはそのようなことをすればお前に永劫の罰が下るとして、真実の愛、真の救済は別のところにあると言って彼女の願いを退ける。

 絶望したクンドリはパルジファルにこの世の全ての道をさまよい続けるがいいと呪いの言葉を吐き、助けを呼ぶ。すると魔法の城主クリングゾールが姿を現し、かつてアンフォルタスから奪った聖槍をパルジファルめがけて投げつける。

 しかし奇跡はおこった。なんとその槍はパルジファルの頭上でピタリと止まったのだ。その聖槍をパルジファルはつかみ十字を切ると、魔法の園はみるみる崩壊し、クリングゾールも姿を消す。

 不毛の荒野に一人残ったクンドリにパルジファルは「お前は知っていよう。私にどこで会えるかを。」という謎めいた言葉を残して去っていく。



(第3幕)
 聖金曜日の朝、第一幕と同じ聖域モンサルヴァートの森の中だが、あれから長い年月がたっていた。

 ますます老いたグルネマンツが茂みに隠れるクンドリを発見する。クンドリは以前と変わらぬ奉仕の姿勢を見せるが、クリングゾールの魔法の呪縛から解放された今、その足取りにはこれまでには見られなかった落ち着きが感じられる。グルネマンツはこれも聖金曜日の恩寵かと感謝する。

 そこへ黒色の鎧を身にまとい、兜の面も閉じたままの男が槍を手に頭を垂れてゆっくりとやってくる。グルネマンツは今日という聖なる日に武装したまま聖域に入ってきた男に武装を解くように命ずる。

 男はずっと黙っていたが、ゆっくりと手に持っていた槍を自分の前の地に刺し、鎧と兜を脱ぎ、それを傍らに置くと、槍の前にひざまずき黙祷を捧げる。

 グルネマンツは驚く。その男はかつて自分が聖杯城から追放したはずの若者パルジファルであった。しかも彼が黙祷を捧げている槍は、聖杯騎士たちが長年待ち焦がれていた聖槍であった。

 パルジファルはクリングゾールの魔法の園でクンドリによってかけられた呪いによって世界をさまよい続けていたが、ついに聖域モンサルヴァートにたどり着いたのだった。パルジファルはこれまで自分が歩んできた苦難の道程を語り、グルネマンツは聖杯騎士団の現在の苦境を報告する。

 傷の癒えないアンフォルタスはもはや死を願うのみとなり、聖杯を開帳しなくなってから長い年月がたった。その間先王ティトゥレルは聖杯の恩恵を受けることができずに死に、他の騎士たちも生気を失ったのだった。

 パルジファルはこれを聞き、このような事態は全て自分の愚かさと長くさまよい続けたことによるものだと自責の念に昏倒しそうになる。しかしグルネマンツは優しくパルジファルを支え、芝生の上に座らせる。

 パルジファルはグルネマンツに頭を、クンドリに足を清めてもらい洗礼を受ける。いまやパルジファルは自らが救世主となり聖杯王の座を引き継ぐという使命を自覚した。そして自分の最初の勤めとして泉水をクンドリの頭に注ぐ。すると彼女は初めて泣くということを知り嗚咽する。

 パルジファルは森の草花がいつにもまして美しいことに気づく。そして激しく泣き続けるクンドリに対し「あなたの涙もめぐみの露となったのです。あなたは泣いている―ご覧、野原は微笑んでいるのです。」と優しく語り、彼女の額に静かに接吻する。

 すると遠くで鐘の音が聞こえる。先王ティトゥレルの葬儀が執り行われるのだ。その席でアンフォルタスは長年開帳していない聖杯を開くことを約束している。

 パルジファルは聖槍を携えて、グルネマンツの案内で聖堂へと進む。クンドリも従っている。森は消え、不思議な空間を三人は歩き聖杯城内の聖堂へと至る。

 やがてティトゥレルの棺が運び込まれ、他方より傷ついた病床のアンフォルタスも運ばれてくる。病めるアンフォルタスに聖杯騎士たちは聖杯開帳を促す。アンフォルタスは死んだ父への思慕を口にするが、いまだに聖杯開帳をためらっている様子である。聖杯を開帳すれば自らが望んでいる彼自身の死はまた延びてしまうのだ。

 そこへ再度聖杯騎士たちから強圧的に聖杯開帳を迫る声があがると、アンフォルタスは突如立ち上がり、騎士たちの方へ突き進み、やはり聖杯開帳はできないと言い、いっそのこと自分を殺してくれと叫ぶ。緊張が一気に高まったところで背後から聖槍を持ったパルジファルが進み出る。

 「その傷をふさぐことに役立つ唯一つの武器は、その傷を作った槍のみ」とパルジファルは言いながら聖槍をアンフォルタスの傷にあてると、たちまちのうちに傷は快癒し、アンフォルタスの顔は歓喜に輝く、

 パルジファルは自ら聖杯王に就くことを宣言し、聖槍を取り戻してきたことを告げる。一同は歓喜をもって高くかかげられた聖槍を仰ぐ。

 そしてついに聖杯王パルジファルは聖壇に登ると聖杯を開帳し黙祷する。すると聖杯は次第に光を発し、人々は感動の面持ちでこれを見上げる。

 聖杯は一層輝きを増し、あかあかと灼熱するなか、円屋根からは一羽の白い鳩が舞い降りてパルジファルの頭上にとまる.

 そのなかでクンドリはパルジファルの足元に倒れ、そのまま息絶える。彼女もパルジファルにより官能ではない真実の愛を受け、死によってその苦悩から解放されたのである。

 アンフォルタスとグルネマンツがひざまずきパルジファルに恭順の意を示すと、パルジファルは祈りを捧げる全ての騎士たちの上に祝福を与えるべく聖杯をかざす。「救世主に救済を」という印象深い言葉が唱えられるなか幕となる。

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