歌劇「タンホイザー」(又はヴァルトブルクの歌合戦)(初演1845年ザクセン宮廷歌劇場)
[主な登場人物]
タンホイザー・・・ヴェーヌスに身を委ねた騎士歌人
エリーザベト・・・タンホイザーに恋する清純な乙女
ヘルマン・・・領主。エリーザベトの父
ヴォルフラム・・・騎士歌人。タンホイザーの理解者
ヴェーヌス・・・官能の女神
(第1幕)
中世ヴァルトブルク。騎士歌人(ミンネゼンガー)として有名であったタンホイザーには清らかな恋人エリーザベトがいた。しかしタンホイザーは快楽に溺れヴェーヌスベルクの洞窟で官能の女神ヴェーヌスの虜になっていた。
しかしタンホイザーは次第に愛欲の日々に飽き、たとえどんな苦難が待ち構えていようと地上の生活に憧れはじめ、ヴェーヌスにそれを伝える。ヴェーヌスはタンホイザーに「(地上で)あなたには休息は与えられないでしょう。救いがほしいときは帰ってらっしゃい。」と言って引き止める。しかしタンホイザーはそれを断固として拒み「わが救済は聖マリアにこそ!」と叫んだその瞬間、ヴェーヌスベルクは一瞬にして消え去る。
気がつくとタンホイザーはヴァルトブルクの地に立っていた。春の明るい朝、牧童の素朴な歌が聞こえるという美しい情景のなか、遠くから巡礼者たちの行列が近づきまた遠のいていく。これを見たタンホイザーは感動し、自らの巡礼への思いを胸にして地に頭を垂れて泣く。
そこへテューリンゲンの領主ヘルマンが騎士たちを従えて通りがかり、タンホイザーを発見する。タンホイザーが帰郷したことを喜び、また仲間に入ってくれと騎士たちは懇願するが、タンホイザーは自らがヴェーヌスベルクにいて官能の世界に溺れていたという罪の重さを思い、ヴェーヌスベルクにいたことを隠したまま仲間に入ることを拒絶する。
しかし騎士の一人ヴォルフラムがかつてのタンホイザーの恋人エリーザベトの名を呼ぶと、たちまちタンホイザーの記憶に彼女の姿がよみがえる。タンホイザーの心は変わり、騎士たちの仲間に加わることになる。
(第2幕)
ヴァルトブルク城内の歌の殿堂の広間。エリーザベトはタンホイザーとの再会を心待ちにしている。そこへヴォルフラムに伴われてタンホイザーが登場。しかしここでも「これほど長く、どこにいらしたのですか。」というエリーザベトの問いにタンホイザーは「遠く離れた国」としか答えない。しかし二人は再会の喜びをわかち合う。
やがてテューリンゲンの領主へルマンをはじめ騎士や貴婦人たちが入場し、歌合戦が始まる。領主のへルマンは今日の歌合戦の課題は愛の本質を歌うことと宣言し、歌の優勝者はエリーザベトから何でも望むものが与えられるであろうと宣言する。
いよいよ歌合戦がはじまり、騎士のヴォルフラムとヴァルターがそれぞれ歌うが、タンホイザーはことごとく反対する。快楽こそが愛であると主張するタンホイザーは全ての人の反感を買い場内が騒然とするなか、興奮したタンホイザーはついに自分が官能の地ヴェーヌスベルクの地に行っていたことを洩らしてしまう。
この大罪に騎士たちは剣を抜き取りタンホイザーに詰め寄るなか、エリーザベトの「おやめください!」という声が場内に響く。彼女はタンホイザーのために命乞いをし、彼に罪の贖いをさせて敬虔な人間に生まれ変わらせるべきだと訴える。エリーザベトの必死の嘆願に心を動かされた騎士たちは渋々剣を収める。
タンホイザーは狂気から覚め、罪を悔いてうちひしがれる。
領主へルマンはタンホイザーに追放を宣言し、このような大罪の許しを乞うにはローマへ巡礼に行くべきだと命ずる。そしてそこで恩赦が受けられないかぎり帰ってくることはならないと宣告し、人々も同調する。すると突然、希望の光がタンホイザーを照らし、遠くからはどこからともなく巡礼の合唱が聞こえてくる。タンホイザーはそれに導かれるように「ローマへ!」と叫び去っていく。
(第3幕)
ヴァルトブルクの山麓の秋。エリーザベトがマリア像の前にひざまずきタンホイザーが赦免されて無事帰ってくるようにと祈っている。そこへ恩赦を受けてローマより帰ってきた巡礼がやってくる。エリーザベトはそのなかにタンホイザーの姿を探したが、そのなかに彼の姿はなかった。
彼女は天に向かって熱烈な祈りを捧げ、タンホイザーの命が許されないなら自分の命を捨ててもいいと言う。それを横で見守っていたヴォルフラムがエリーザベトに声をかけるが、彼女は身振りでそれを謝絶し、ひとり山のなかへと消えていく。
一人残ったヴォルフラムはエリーザベトの身を案ずる。そこへ疲れ果てて昔の面影は全くないタンホイザーが現われる。驚くヴォルフラムに対し彼は再びヴェーヌスベルクの道をさがしているという。ヴォルフラムはタンホイザーにローマへ行かなかったのかと尋ねる。はじめは自暴自棄になり語ろうとしなかったタンホイザーだが、ヴォルフラムの温かい態度に心を動かされローマへの巡礼を語る。
タンホイザーはローマへの巡礼の際、他の巡礼者よりも苦行を重ね、必死に罪を贖おうとした。そしてついにローマに着き、人々に恩赦がもたらされているなか、法王からタンホイザーに下された宣告は次のようなものであった。「お前がこのような地獄の業火に身を焦がせヴェーヌスベルクにとどまったからには、お前は永久に呪われるのだ。私の手にするこの杖が新緑に飾られることがないかぎり、お前は地獄の焼印のなかから決して救済がもたらされることはない。」
タンホイザーは今やひたすらヴェーヌスベルクへの道を求め、ついにヴェーヌスが現われタンホイザーを迎えようとする。タンホイザーがまさにヴェーヌスベルクへ行こうとしたその時、ヴォルフラムはエリーザベトの名を叫ぶ。その瞬間タンホイザーは狂気から覚め、ヴェーヌスは消え去る。
そこへ運ばれてきたのはエリーザベトの亡骸だった。彼女はタンホイザーのために身を犠牲にしたのだ。棺がタンホイザーの前まで運ばれるとタンホイザーは「聖なるエリーザベトよ、我がために願え。」と叫んでその場で息絶える。
するとそこへ若い巡礼たちが新緑の葉を生やした杖を持ってやってくる。かつてその杖に新緑が生えないかぎり救済されないと言われたが、その奇跡が起こったのだ。タンホイザーは息絶えたが、その魂はエリーザベトの自己犠牲により救済されたのである。
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