舞台祝祭劇「ニーベルングの指環」〜第三夜
楽劇「神々の黄昏」
(初演1876年バイロイト祝祭劇場)

神々の黄昏 ニーベルングの指環
[主な登場人物]
 ジークフリート・・・ジークムントの遺児
 ブリュンヒルデ・・・元ワルキューレ
 グンター・・・ギビフンク族の当主
 ハーゲン・・・アルベリヒの子。グンターの異父弟
 グートルーネ・・・グンターの妹

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(序幕)
 岩山で三人のノルンが運命の綱を編みながら神々の行く末を案じている。そして神々の支配する世もまもなく滅びることを予言するかのように運命の綱は切れてしまう。彼女たちは地下へと姿を消す。

 暁になるとジークフリートとブリュンヒルデが岩屋から出てくる。旅に出るジークフリートはブリュンヒルデへの愛の証として指環を彼女へ渡し、ブリュンヒルデはジークフリートに愛馬グラーネを贈る。ジークフリートは岩屋を再び炎で覆い出発する。



(第一幕)
 ライン河畔のギビフンク族の広間。グンター、グートルーネ、ハーゲンが語り合っている。グンターはギビフンク族の長であり、その妹がグートルーネである。ハーゲンはアルベリヒの息子であるが、グンターとは母を同じくする異父弟にあたる。

 ハーゲンは父アルベリヒの代からの悲願である指環奪還を内心企んでいる。そのためにはジークフリートに近づかなければならない。そこでハーゲンはグンターにはまだ嫁がなく、グートルーネには夫がいないことに目をつけ、グンターとブリュンヒルデ、グートルーネとジークフリートを結婚させようとして、グンターとグートルーネに提案する。

 しかしブリュンヒルデを得るには彼女の周りを囲んでいる炎を乗り越えなければならない。そのことができるのはジークフリートだけである。ジークフリートにそれをしてもらうにはグートルーネが彼を虜にさせて、グートルーネの言いなりにさせる必要がある。そのためにはジークフリートに忘れ薬を飲ませて過去の女性を忘れさせてしまおうとハーゲンはグンターとグートルーネに持ちかける。

 ハーゲンはこうすることによってジークフリートとブリュンヒルデの仲を引き裂き、それぞれをグートルーネ及びグンターと結婚させることにより指環奪還のチャンスをうかがおうとしているのだった。ちなみにグンターとグートルーネはジークフリートとブリュンヒルデが結ばれているとは知っておらず、自分たちが良い相手と結婚できるならジークフリートに忘れ薬を飲ますことも構わないと思っている。まさかジークフリートが忘れ薬を飲むことによって忘れる女性がブリュンヒルデだとは夢にも思っていない。

 ちょうどそこへジークフリートの角笛が聞こえてきて、彼が船を漕いでやってくる。ハーゲンは大声をあげて彼を呼びとめ、彼をグンターの屋敷へ招き入れる。

 グンターがジークフリートに歓迎の意を示すなか、グートルーネはかねてからの計画どおりジークフリートに飲み物だと偽って忘れ薬を差し出す。そうとは知らないジークフリートはブリュンヒルデへの愛を想いながらその飲み物を飲み干す。

 すると次の瞬間、ジークフリートは過去の女性つまりブリュンヒルデのことを全て忘れてしまい、目の前の女性グートルーネに夢中になり即座に求婚する。

 グンターはジークフリートに自分があこがれている女性としてブリュンヒルデのことを話す。ジークフリートはブリュンヒルデのことを聞いているあいだ、何度もグンターの言葉を繰り返しブリュンヒルデのことを思い出そうとするが思い出せない。結局ジークフリートはグートルーネと結婚できるなら、グンターのためにブリュンヒルデを連れてこようと約束する。

 そこでグンターとジークフリートは兄弟の契りを交わす。しかしハーゲンは自分の出自を理由に契りには加わらない。やがてジークフリートとグンターはブリュンヒルデを奪いに勇んで出発する。ハーゲンはそれを冷酷に見つめている。ジークフリートとグンターを手玉に取り、事態は着実にハーゲンの思惑どおりに進んでいるのだった。

 一方、岩屋へ一人残ってジークフリートからもらった指環を眺めながら暮らしているブリュンヒルデのもとへ、ワルキューレの一人で妹のワルトラウテが訪ねてくる。主神ウォータンが自分を許してくれたのではないかと淡い期待を抱いていたブリュンヒルデだったが期待は全く裏切られ、むしろ神々の窮状がひどいことを聞く。

 ウォータンはもはやフライアの青春のりんごに指さえ触れることもなく、カラスが悪い知らせを持ってくると神々の終焉が近づいていることを確信するようになっているのだった。「指環をラインの娘たちに返せ。それによって神と世は呪いから解放される。」というウォータンの言葉をワルトラウテはブリュンヒルデに伝え、指環をライン河に返すよう懇願するが、ブリュンヒルデはジークフリートとの愛の証の指環を決して手放そうとしないのでワルトラウテは絶望して天上へ去っていく。

 やがてジークフリートの角笛が聞こえてくる。ブリュンヒルデは彼を迎え入れようとするが、目の前に現われたのは見知らぬ男グンターだった。実はジークフリートが隠れ頭巾でグンターに変身してブリュンヒルデを連れ出そうとしているのだった。岩屋の炎を乗り越えられるのはジークフリートだけだと思っていたブリュンヒルデはグンターの出現に困惑する。

 グンターに変身したジークフリートがブリュンヒルデを連れ出そうとしたので、ブリュンヒルデは指環を突き出し身を守ろうとするが、ジークフリートは全く構わず指環も奪ってしまう。

 グンターに変身したジークフリートはブリュンヒルデと岩屋で一夜を共にするが、グンターとの信義を守るためブリュンヒルデとの間にはノートゥングを立てて隔てておくことを宣言して奥へと消える。



(第二幕)
 夜ハーゲンがギビフンクの館で眠っていると、夢の中にアルベリヒが出てくる。アルベリヒはハーゲンに指環を奪還するよう励まし、ハーゲンはそうすることを誓う。

 夜が明けるとジークフリートはグートルーネに会いに一目散で帰ってくる。彼はグンターの姿でブリュンヒルデを拉致したあと、外で待っているグンターとうまくすりかわって戻ってきたのだ。

 後からグンターとブリュンヒルデを乗せた小船がやってくる。ハーゲンはギビフンクの家臣を集め、婚礼の準備を進めるよう命ずる。

 やがてグンターとブリュンヒルデ、ジークフリートとグートルーネの婚礼が始まるが、拉致されてきたブリュンヒルデは一人うなだれている。このためジークフリートに気づかないが、グンターからジークフリートとグートルーネの結婚式も同時に挙げられるのを聞いて愕然として頭を上げ、ジークフリートがそこにいることを確認する。しかしジークフリートは記憶を失っているのでブリュンヒルデをみても平然としている。

 呆然とするブリュンヒルデは、ジークフリートの指に先程グンターが強奪したはずの指環が光っていることに気づく。この時ブリュンヒルデは直感的に、指環を彼女から強奪したのはグンターではなく、グンターに変身したジークフリートであったことを知る。

 ブリュンヒルデは自分の夫はジークフリートであることを告げるが、彼女のことを忘れているジークフリートは真っ向から否定する。本当はジークフリートがブリュンヒルデの夫であるとは夢にも思っていないグンターとグートルーネは、ブリュンヒルデの告発を聞いてジークフリートに身の潔白を証明するよう求める。そこでジークフリートはハーゲンの差し出す槍に向かい自らの潔白を宣言する。それに対しブリュンヒルデも自己の発言の正当性を誓う。シークフリートはブリュンヒルデの誓いをさして気に留めず、グートルーネの腕を取り広間へ入っていく。後にはグンター、ブリュンヒルデ、ハーゲンの3人が残る。

 悲嘆に暮れるブリュンヒルデにハーゲンが近づき、ジークフリートへの復讐を勧める。偽誓の罪によりジークフリートをハーゲンの槍で殺害しようというのである。はじめはジークフリートに勝てるはずがないと言っていたブリュンヒルデだが、唯一のジークフリートの弱点を見出す。彼は決して敵から逃げないので、彼の背中にだけは無敵になる秘術をブリュンヒルデはかけてなかったというのだ。

 ジークフリートの弱点をついに聞きだしたハーゲンは、ブリュンヒルデとグンターをジークフリート殺害の仲間に引き込み、3人で復讐の誓約を交わす。同時にハーゲンは内心で指環を必ず手に入れてみせると改めて誓う。



(第三幕)
 ライン河のほとり。3人のラインの乙女たちが水の中から姿を現す。失われたラインの黄金のことを彼女たちが嘆いていると、ジークフリートがやってくる。彼女たちはジークフリートから指環を返してもらうように頼むが、ジークフリートは大蛇を倒した記念だといって手放そうとしない。そのためラインの乙女たちがジークフリートのことをけちだと言ってからかうと、ジークフリートはそこまで言われるならと指環をラインの乙女たちに返そうとする。するとラインの乙女たちの態度は豹変し、その指環を持っていることがどんなに恐ろしいかわかるまで持っておくように言う。そしてブリュンヒルデを忘れて指環に固執するジークフリートは必ず殺されると予言して消えていく。

 狩の場でジークフリートはグンターとハーゲンと酒宴を開く。ジークフリートはさきほど川でラインの乙女たちから今日中に殺されると言われたことを平然と語る。それを聞いてグンターは顔色を変える。彼は妹のグートルーネのことも考え、いまだにジークフリートを殺すことにためらいを感じている。沈み込んでいるグンターを見て、ジークフリートは彼を励まそうと、かつての武勇伝を語りだす。

 ミーメが彼を養育し、成長したジークフリートは霊剣ノートゥングを鋳直し、大蛇ファフナーを倒し、その血をなめると小鳥の言葉を理解するようになった、さらに小鳥は大蛇の持っていた指環などの財宝を手に入れるようジークフリートに言い、ミーメの企みのことも告げたのでミーメを殺害したことを語る。

 ところがジークフリートは忘れ薬のために、その先のことを語ることができない。ハーゲンは記憶をよみがえらせる薬を飲み物の中へ入れジークフリートに飲ませる。するとジークフリートの失われた記憶は次第に蘇りはじめる。ジークフリートの口調は次第に熱を帯びてくる。

 小鳥が次にジークフリートに告げたのは、岩山に行けばそこにはブリュンヒルデが眠っているということだった。ジークフリートがそこへ行き炎の壁を越えると、そこには鎧・兜に身をまとって眠る美しいブリュンヒルデがいた。そしてジークフリートがブリュンヒルデに口づけすると、ブリュンヒルデは目を覚まし、熱烈にジークフリートを抱擁したのだった。

 これまでジークフリートが言ってきたことと全く違う話に驚くグンター。とその時、上空のカラスに気をひかせたハーゲンは背後からジークフリートの背中へ槍を突き刺す。ジークフリートはその場で倒れてしまう。ハーゲンは「偽誓を罰したのだ。」と自分の行為を弁護し、昂然として去っていく。

 瀕死のジークフリートは気力を振り絞って目を見開き、ブリュンヒルデの目覚めの場面を回想する。彼はいまやブリュンヒルデのことを完全に思い出し、彼女への真の愛を完全に取り戻した。ジークフリートは聖なるブリュンヒルデの姿を眼のなかに見つめ、そして息絶える。グンターたちはジークフリートの屍をおごそかな行進曲の下にギビフンクの館へ運んでいく。

 ギビフンクの館ではグートルーネがジークフリートの帰りを待っている。しかしハーゲン、グンターとともに帰ってきたのはジークフリートの屍だった。グートルーネは兄のグンターがジークフリートを殺したと思い、激しくののしるが、グンターはジークフリートを殺したのはハーゲンだと明かす。

 ハーゲンは開き直り、自分はただジークフリートの偽誓を罰しただけだと言って、ジークフリートの指にある指環の権利を要求する。しかしその指環はグートルーネのものだと主張するグンターとの間で戦いとなり、ハーゲンはグンターを一撃の下に打ち倒す。そしてハーゲンはジークフリートの屍に近づき、その手から指環を抜き取ろうとする。

 するとその時、死んだはずのジークフリートの手が突如として威嚇するように上がり、ハーゲンをひるませる。一同驚いて騒然とするなかブリュンヒルデがおごそかに進み出る。彼女はいまや全てのことがわかっていた。グートルーネはブリュンヒルデがこの屋敷にやってきたことが全ての不幸の始まりだったと言って彼女をなじるが、ブリュンヒルデからことの真相を聞き、ジークフリートの本当の妻はブリュンヒルデで彼は忘れ薬によってそのことを忘れていたにすぎなかったことを知る。グートルーネはいたたまれなくなりグンターの屍の上に泣き崩れる。

 ブリュンヒルデはひとり中央に立ち、無限の悲しみのなかジークフリートへの思いを語り、天上のウォータンに対しこのような悲劇は全てウォータンの欲望から始まったのだと訴え、2羽のカラスにこの結末を伝えに行かせる。

 ブリュンヒルデはジークフリートの手から指環を手に取ると、それをラインの乙女たちに返す決意を語る。ラインの河畔に薪を積み上げさせた彼女は、そこへジークフリートの屍を置き、薪に火をつける。

 炎が濛々と燃え上がるなか、この炎が神々のワルハラ城をも焼き尽くすことを予言したブリュンヒルデは、忘我の境地のなか自らもその火の中へ身を投げる。すると火はギビフンクの館を焼き尽くし、その後にはライン河の水が押し寄せる。

 ハーゲンは指環を奪おうと水中に飛び込むが奔流は全てのものを呑み込んでしまう。その水中ではラインの乙女たちが指環が戻ってきたことを喜んでいる姿がみえる。

 やがて炎は天上にまで燃え上がり、ワルハラ城を焼き尽くしているのが見える。その炎は神々をも呑み込み全てを焼き尽くす。

 全てが無に帰した世界に「愛の救済の動機」の旋律が流れるなか全曲の幕となる。

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