楽劇「トリスタンとイゾルデ」(初演1865年バイエルン宮廷歌劇場)

トリスタンとイゾルデ 作品紹介
 [主な登場人物]
  トリスタン・・・コンウォールの騎士
  イゾルデ・・・アイルランドの王女
  マルケ・・・コンウォール王
  クルヴェナール・・・トリスタンの従僕
  ブランゲーネ・・・イゾルデの侍女
  メロート・・・マルケ王の家臣


 コーンウォールの騎士トリスタンは、さきのアイルランドとの戦いで敵方のイゾルデの許婚モロルトを殺害したが、その際自らも傷つき、治療の秘術を知るイゾルデのもとに「タントリス」という偽名をつかってやってきた。イゾルデは彼がトリスタンであることを見抜き、許婚モロルトの仇を討とうとする。しかし彼女はトリスタンを見た瞬間、彼を愛するようになり、一度は彼を殺そうとして振り上げた刀も下ろしてしまう。

 その後コーンウォールに戻ったトリスタンによりイゾルデはコーンウォール王マルケの花嫁に定められ、マルケのもとに送られることになった。その送迎船の舵手となったのはトリスタンだった。

(第1幕)
 送迎船の甲板。若い水夫がイゾルデを揶揄するような歌を唄う。それを聞いたイゾルデは怒り、コーンウォールには上陸したくないと叫び、嵐がおきて船が沈没してくれればよいと言う。

 イゾルデは舵手のトリスタンを愛しつつも、そのトリスタンは亡き許婚モロルトの仇であり、しかも傷ついたトリスタンの命をイゾルデが助けてやったにもかかわらずその恩を忘れ、彼女が愛してもいないマルケ王のところに彼女を搬送する舵手としてトリスタンがいることに複雑な感情を抱いている。さらにトリスタンはイゾルデに視線を合わそうともしない。トリスタンが自分のところまで挨拶にくるべきだというイゾルデは侍女のブランゲーネをトリスタンのもとへ遣る。

 ブランゲーネがトリスタンにイゾルデからの伝言を伝える。トリスタンは内心は苦悩を感じながら舵手の仕事を理由にそれを拒絶する。さらにトリスタンの従者クルヴェナールがトリスタンを褒め、イゾルデを揶揄する歌を唄うのでイゾルデはますます怒る。

 イゾルデは戻ってきたブランゲーネに初めてこれまでの経緯を語る。イゾルデの感情を理解したブランゲーネは、トリスタンはイゾルデに恩を感じているからこそマルケ王妃という最もすばらしい栄誉を差し上げているのではないかとトリスタンの態度を好意的にみてイゾルデを慰める。

 しかしイゾルデは愛のない政略結婚に苦しみを感じているのである。それを知ったブランゲーネはアイルランドから持ってきた媚薬箱を持ってきて、そのなかから愛の薬を取り出す。しかしイゾルデは拒絶する。彼女が選んだのは死の薬だった。ブランゲーネは愕然とする。外からは水夫たちの声がして、船が目的地の港へ入ったことを知る。イゾルデはもはや一刻の猶予もできないと悟る。

 クルヴェナールがやってきて上陸の準備をするように告げるが、イゾルデは「トリスタンがさきに謝罪に来なければ上陸することはできない。」と答え、クルヴェナールを追い返しブランゲーネには死の薬を用意させる。

 ついにトリスタンが現われる。これまでの経緯もあり二人は互いに胸のうちを明かそうとせず、もどかしさが残るが、イゾルデは和解の杯と偽ってブランゲーネが差し出す薬をトリスタンに渡した。ところがこのときブランゲーネは急場を救うために死の薬ではなく愛の薬をひそかに入れていたのだ。

 トリスタンはその杯を飲もうとするが、死の薬と信じているイゾルデは自らも死ぬつもりで、彼から杯を取り半分は彼女が飲んでしまう。

 その瞬間、二人は呆然と立ちすくみ互いに見つめあう。緊迫の時が流れるなか二人の間には熱烈な愛の炎が燃え上がり、互いに相手の名を呼び抱擁するうちに船は目的地コーンウォールへ到着する。しかし二人はもはや周りのことは目に入らない。そして自分たちが死んでいないことに気づいたイゾルデはブランゲーネから愛の薬を飲んだことを聞かされ愕然とする。



(第2幕)
 コーンウォール城内の王妃イゾルデの部屋の前庭の夏の夜。辺りは松明が燃えている。マルケ王は家臣のメロートのすすめにより猟に出て留守である。王たちの猟の角笛がにぎやかに聞こえているがイゾルデはトリスタンと会うことを待ち焦がれている。王が猟に行けばトリスタンとイゾルデは密会をするであろうから、それを王に見せようというメロートの企みをブランゲーネはイゾルデに伝え警告するが、イゾルデは全く聞く耳をもたない。そしてブランゲーネが警戒のためにつけていた松明をも消してしまう。ブランゲーネは高台にのぼり見張りをするために出て行く。

 ついにトリスタンがイゾルデのもとにやってきた。二人は激しく抱き合う。そして彼らは昼(光)の世界を恨み、夜(死)の世界への憧れを抱き、二人を結びつけた愛の薬を讃える。そして二人が完全に結ばれるには死ななければならないと考えるようになる。

 死の予感を交えた愛の陶酔へと二人の心は高まるなか、見張台からブランゲーネが警告を発する。しかし二人は全く耳を貸さない。ますます二人の愛の陶酔は高みに達し、それが最高潮になったとき突然ブランゲーネの叫び声が響く。忠臣クルヴェナールも「逃れよ!トリスタン!」と叫ぶがすでに遅く、そこにはメロートとマルケ王が立っていた。メロートは密会の現場をつきとめて誇らしげだが、信頼していたトリスタンと妻イゾルデに裏切られたマルケ王の悲しみは深い。

 マルケ王になぜこのようなことになったのかと訴えられたトリスタンだが「王よ、それには答えられません。お尋ねのことは決して知ることはできないのです。」と返答を拒否する。

 トリスタンはイゾルデに一緒に夜(死)の国へ行ってくれないかと尋ね、イゾルデもこれに同意する。それを聞いていたメロートはトリスタンに斬りかかる。するとトリスタンは自ら剣を落とし、メロートの剣に向かって身を投げ出し深い傷を負う。トリスタンはクルヴェナールの腕の中で倒れ、イゾルデはトリスタンの胸に身を投げる。



(第3幕)
 深手を負ったトリスタンはクルヴェナールに連れられて故郷カレオールに戻り、眠っている。クルヴェナールはトリスタンの重傷を治すことのできるのはイゾルデの秘術だけであることを知っているのでイゾルデを呼びに遣らせている。牧童が見張りをしているがイゾルデの船が見えない間は悲しげな牧笛を奏している。

 ようやくトリスタンが目を覚ます。意識が朦朧とするなか、トリスタンはこれまでのことを回想する。彼は意識を失っていた間に夜(死)の国へ足を踏み入れていたと言う。それはどこかはわからないが、将来また行くべき所なのである。しかしトリスタンはイゾルデを昼の世界に残してしまったので再び夜の国から帰ってきたのだ。

 トリスタンは錯乱しながら幻想のなかにイゾルデを見て叫ぶ。トリスタンはイゾルデがやってきたとクルヴェナールに同調を求める。クルヴェナールは慌てて牧童に確認するが、牧童が奏したのは悲しい旋律だった。さらにイゾルデへの憧れを叫び続けるトリスタンは自らを苦悩に委ねた愛の薬を呪ったところで再度失神しかける。

 そのなかにあってもトリスタンにはイゾルデが近づくのが見える。再度トリスタンは激しい調子でクルヴェナールに確認を求める。すると牧童の笛から楽しげな旋律が響いてくる。イゾルデが本当にやってきたのだ。トリスタンは極度の興奮状態となり、死への憧れのあまり、包帯をひきちぎり「我が血よ!楽しく流れ出よ!」と叫ぶ。

 ようやくイゾルデがトリスタンのもとに到着したときは、すでにトリスタンは虫の息だった。イゾルデはトリスタンを抱いたが、トリスタンはその直後に彼女の腕の中で息絶える。イゾルデも気を失う。

 まもなく牧童が船がもう一隻着いたことを知らせる。マルケ王がメロートたちを引き連れてやってきた。ブランゲーネから愛の薬のこと聞いたマルケ王は二人を許すためにやってきたのだ。しかし、主人トリスタンを失ったことで気が動転しているクルヴェナールは彼らがトリスタンを殺すためにやってきたと信じこみ、彼らに向かって斬りかかりメロートを刺し殺し、自らもその戦いで討ち死にする。

 トリスタン、クルヴェナール、メロートの3人が絶命している状況を目の当たりにし、トリスタンを許すためにやってきたマルケ王は嘆き悲しむ。

 そのとき気を失っていたイゾルデが目を覚ます。イゾルデは周囲の一切が耳に入らず、幻影のなかにトリスタンの昇天を見ながら彼女自身も夢の法悦のなか息絶える。

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